南町田まちづくり通信

第1回「南町田のまちのがっこう」を開催しました

猛暑の続く7月29日、セミナープラス南町田で第1回「南町田のまちのがっこう」が開催されました。

「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」の一環として開催してきたワークショップも今年で3年目。2016年は「鶴間公園の明日を考えるワークショップ」、2017年は「鶴間公園のがっこう」と、鶴間公園を活用するアイデアや企画を検討してきました。2018年は、いよいよ公園を飛び出し、まちをフィールドとした全5回の「まちのがっこう」の開講です。

第1回目となる今回は、ふたりのトークゲストの講演とトークセッションから、2018年度ワークショップのコンセプトでもある「ひとりひとりの趣味や特技でまちをステキにする」がどういうことかを学びました。

マイパブリック~第三の趣味を楽しもう~

最初の登壇者は、株式会社グランドレベル代表取締役の田中元子さん。会社名にもなっているグランドレベルとは、まちの道路に面する1階部分のこと。「1階づくりはまちづくり」を合言葉に、さまざまな事業を手がけています。

田中さんは、建築雑誌や書籍の編集プロダクションをやっていた頃、東京・神田の4000平米の空き地で、イベントを自由に企画していい、という機会をもらいました。そこでやったのがキャンプイベント。当初はイベントを盛り上げなければとさまざまなレクリエーションを企画したそうですが、本を読んだり、ランニングに出かけたり、近くのテントの人と話し込んだりと思い思いに楽しんでいる参加者を見て「放っておいたほうが、能動性を発露してこの環境を楽しんでくれる」ということに気づいたそうです。

さらにその後、事務所に小さなバーカウンターをつくり、友人や知人を招くようになったことも大きな転機になりました。自腹でお酒やおつまみを買って振る舞っているうちに、田中さんは自分の趣味が「人をもてなすこと」だと気づくのです。

さらに趣味を楽しむために、田中さんは小さなパーソナル屋台をつくりました。コーヒーをつくり、店の軒先などで通りがかりの人に振る舞うのです。すると、いつのまにか屋台の周りは人だかりに。そこにはひとつのコミュニティ、パブリックが生まれていました。そんな個人から始まる公共を、田中さんは「マイパブリック」と呼んでいます。

その後、パーソナル屋台をつくって実際に振る舞ってみるワークショップをやったところ、パーソナル屋台のコンテンツとデザインは、人の数だけバリエーションがあることがわかりました。たくさんの人の趣味を集めると、イベントもできてしまいます。渋谷で開催したふるまい祭りでは、数学を振る舞う大学の数学教授、DJによるスクラッチ体験など、たくさんの人の趣味や特技が振る舞われ、開催した広場の最高動員を記録したそう。

「ひとりひとりが能動性を発揮することで、まちを自分たちのものにする。たくさんのマイパブリックで世界を変えることができるんです」

まちづくりというと何か大きなイメージを持ちますが、じつはひとりひとりの小さな積み重ねこそが大切で、まちを魅力的にしていくのだと実感できたお話でした。

本で人とつながるまちライブラリーの楽しみ方

続いては森記念財団普及啓発部長で「まちライブラリー」提唱者でもある礒井純充さんの講演です。礒井さんは1981年に森ビルに入社し、現在の「六本木アカデミーヒルズ」の前身となる教育事業を手掛けてきました。もともと私塾として始まった勉強会は徐々に規模が大きくなり、参加者も増え、礒井さんは顔の見える関係性が薄れてきていると感じていました。そんなときに異動が決まり、長年従事した教育事業を離れることに。それならばと始めたのが、本を通じて人と出会う仕組み「まちライブラリー」でした。

まちライブラリーは、まちなかに誰でもつくることができる小さなライブラリー(本棚)です。やり方は簡単。まちライブラリーを開く場所を用意し、本の寄贈を募るのです。ただしその際、要らない本ではなく、誰かに読んでもらいたい本を寄贈してもらうというのがポイントです。さらに本にはメッセージカードがつけられ、寄贈した人の情報やコメント、その本を読んだ人が感想を書けるようになっています。ちょっとした工夫から思いのやりとりが生まれ、コミュニティが自然と育まれることにつながっていくのです。

「いわゆる図書館との違いは動機です。受動的ではなく、能動的に参加してつくる場なので、社会関係資本が高くなります」と礒井さん。規模や場所、細かい内容に大きな決まりはなく、カフェなどを併設した規模の大きなものもあれば、個人宅の本棚を私設文庫として開放しているところ、神社の境内に本棚を置いてミニマムにやっているところもあります。本を通じて人と人が出会う面白さもさることながら、そうした気軽さ、取り入れやすさもあって、今ではシアトルからシンガポール、そして日本各地に約600箇所ものまちライブラリーが誕生しています。

「これからは、提供者から利用者へという一方的な関係ではなく、利用者同士の輪や、提供者と利用者の双方向の関係こそが大切です。本は、その媒介なんですね」

誰でも、大切な本の1冊や2冊はあるものです。それを紹介することが、自分の「好き」を伝え、他者との対話のきっかけとなり、公共性のある場への貢献にもつながっていきます。まちライブラリーが爆発的な広がりを見せたのは、小さなアクションがもたらす広がりの力を、多くの人が感じたからではないでしょうか。

ひとりの価値とコミュニティが成熟する価値は比例する

後半は参加者からの質問も交えながら、個人の思いがどうしてまちをステキにしていくのかを考えるトークセッションを行いました。

おふたりに共通しているのは、個人に着目していることです。

礒井さんがまちライブラリーの概念を共有するためにやったのは、ルールづくりではなく、個人を信頼することでした。「こういう本はダメとか、こういう本は処分しますということは言いたくなかった。でも“誰かに読んでほしい本を持ってきてください”と言うと、変な本を持ってくる人っていないんですよね」と礒井さん。

田中さんは、そんなまちライブラリーのよさのひとつは「本を選ぶときやメッセージを書くときはひとりだということ」と指摘します。グループワークの場では遠慮したり、同調圧力に押されてしまう人も多いなか、ひとりの時間をもつのは大切なこと。

「ひとりの価値とコミュニティが成熟する価値は比例します。たとえば“このまちに合った本を集めましょう”といってつくられた本棚は、きっとつまらない本棚になるのではないでしょうか」と田中さん。

ひとりひとりが、ぜひ読んでもらいたいという思いで寄贈した本の集まりは、それだけで、唯一無二の個性あるライブラリーになるのです。

そして、まちづくりを考えすぎないで、まずは個人が好きなことを持ち寄ってやりたいことを考えてみませんか、という提案がなされました。参加者がみな、私は何が好きなんだろう、いったい何をやりたいんだろうと想像し、ワクワクしている様子が伺えました。

ひとりひとりの「好き」で、ステキなまちに

最後に、参加者で3人ずつのグループになってもらい、事前に書いてもらった「私のお気に入り(趣味や特技)」とお気に入りに関連するおすすめの本の紹介をしあうミニワークショップを行いました。改めて、ひとりひとりのお気に入りシートを見てみると、興味を持っているものは面白いほどバラバラです。一方で、ほかの人のお気に入りの話を聞いているときも、とても楽しそうにしているのが印象的でした。人の数だけ「好き」があり、誰かの「好き」を知ることで世界が広がる。短い時間でしたが、参加者の生き生きした表情が、そのことを物語っていました。

9月1日には「趣味や特技や好きなことを“本”で持ち寄ろう、つながろう」と題した第2回のワークショップを開催します。本をきっかけとして、ひとりひとりの好きなことを持ち寄り、参加者のつながりづくりを行います。個人を起点に社会とつながると、いったいどんなことが起こり、どんなまちになっていくのでしょうか。今後の展開が楽しみに感じられた1日でした。

参加者の感想
Y.Hさん(40代・女性)
町田に越してきて2年が経ちますが、正直、町田のことがよくわかりませんでした。田中元子さんの本は以前に読んでいてお話を聞いてみたかったのと、自分の住むまちの活動に加われたらいいなと思って参加しました。お話も面白かったですし、個人で何ができるかな、自分でも何かできそうだなと思ったので、これからも参加して、チャレンジしたいと思います。

N.Sさん(30代・男性)
勤め先が町田市内なんですが、田中元子さんの話に興味があって伺いました。自分のやりたいことをできる範囲でやっていくということにすごく興味が湧きました。自分に何ができるかを考えてみたいなと思うので、今後も参加したいと思います。次回は本を持ち寄るということだったので、それがどういうふうに形になっていくのか、楽しみです。

Y.Oさん(60代・女性)
知人から聞いて、どうしようかなと思いながらきてみたら、すごく面白かったです。ひとりから始めるっていうことに孤独な感じを持っていたんですが、実はそれが豊かさなんだということがわかって、涙が出るぐらい嬉しかった。私は介護関係でまちの居場所づくりみたいなことをやっていて、いろいろな人をつなげたいと思っているんですが、なかなか人が来てくれないのが現状です。でもまちライブラリーみたいに、きっかけがあって心を開いてくれたら自然につながるんですね。そういうことも具体的に思い描くことができたので、本当にきてよかったと思います。

南町田まちづくり通信一覧